BLACKNESS DRAGON ~希望という名の光~


痛みと恐怖で目を見開きながら、恐る恐るその痛みの先へと目を下ろす…



その彼の瞳に映ったのは、応急処置で何とか塞いだはずの脇腹の傷から、大量に流れる真っ赤な液体…



彼に後ろから抱きついているマーガレッドの指が、傷口を無理やり開いていたのだ…



再び流れ始めたその液体は、止まる事を知らない…




 「フフッ…」


耳元で聴こえた笑い声に、恐怖を覚えたライナスは、彼女の腕から無理やり逃れ、距離をとる…



ザッと地を滑りながら止まると、両膝をつき、前かがみになる…




傷口を押さえ、目を見開く彼の頭の中は、治療魔法を唱える事すらできない程に混乱していた…



ドクドクと、心臓の音が耳に響く…


そして、止めどなく血を流し続ける傷口は脈を打ち、心臓と共にリズムを奏でる…




クソッ…

クソッ…

クソッ…


魔法を唱える暇もなければ、

低級魔法では傷1つ負わせられない…


身を隠し時間を稼ぐ事も、

遠距離からの攻撃も、


何もかもできない…

為す術がない…


何て無力なんだ…

こんなに無力だったなんて…

闇を前にして、初めて実感した…

自分の無力さを…




傷口に添えていない手を地につけ、グッと砂を握りしめた…



彼の耳には、遠くで不気味に笑う、マーガレッドの声も、自分の速まる心臓の音も、いつの間にか聞こえなくなっていた…



音を失ったように時が流れ、今目の前で起こっている事が、現実ではないように思えてくる…






 『魔法というのは、誰かを護る為にあるものだ。』


ふと、そんな彼の耳に聴こえた、懐かしい声…



魔法の基礎を教えてくれた、師匠でもある父の声が、風に乗ってやってきた…



小さな頃の、様々な父の言葉が、頭の中に流れてゆく…



叱られた事…

誉められた事…

そして、特別な魔法の事を…




 『命を削る魔法は、何十年も封印された魔法。その全ての名は……』



 「『禁忌…』」


顔を伏せたまま、彼はぼそりと呟いた…