彼女から距離を置き、辺りを見回すが、何も変わった所はない…
襲ってくる刃物も…
不気味に宙を浮く武器も…
特に目立つ物はない…
何をしようとしていたのかと、行動を起こそうとしていた人物を睨む…
突き飛ばされたその人物は、壊れた家の壁に寄りかかりながら、顔を伏せている…
伏せているが、微かに見える唇は、確かに笑っていて…
不気味で、どこか恐怖を覚える…
そんな雰囲気を醸し出しているのをを知ってか知らずか、彼女は肩を揺らして笑い出す…
何がおかしいのかと、眉を潜めていると…
「!?」
背後から聞こえる、何かが跳んでくるような、空気を裂く音…
それに気づいたライナスは、振り返りながらとっさに横に跳ぶ…
そんな真横を、赤黒く鋭い棘が通過…
その棘先は彼の頬を掠め、一筋の赤い線を形作る…
その浅い傷から流れ、宙に舞う血液…
2粒の小さな雫は、楕円形に揺れながら、血に舞い降りようとしていた…
何なのかと、伸びてきた赤黒い棘を見つめ、目を細めていると…
顔の真側から、再び迫って来る何か…
その正体をあばこうと、そちらに顔を向けると…
そこには、宙を舞う小さな血液が鋭い棘となり、彼の身体を狙っていた…
有り得ないと、目を見開きながら、その棘を難なく交わす…
が…
その後ろから現れた、もう1つの小さく細い棘…
一本の棘に気を取られ、その棘の存在すら気づかなかった彼は、交わす事は不可能だった…
「…くっ…そっ……」
細い棘は彼の腕を貫き、再び元の血液へと姿を変える…
冷たくなった血液は、新たに流れる血液と共に地に降り注ぐ…
苦痛に顔を歪め、痛みに耐えようと唇を噛む…
血を止めようと傷口を押さえるが、溢れ出る血液は止まる事を知らない…
ボトボトと流れ落ちた血液は、棘となり彼を襲い、それを避けようと後退するライナスは、魔法を唱える暇すらなかった…

