窓から差し込む陽の光。
暖かなその光は、何もなかったかのように、長く続く廊下を照らす…
そして、様々な人物の頬に降り注ぐ…
人気のない、物静かな廊下。
汚れのない、治療室の前のその廊下を、フジは両手に沢山の荷物を抱え、早足で歩いて行く。
手にするのは、薬や包帯、献血用の血液など、治療に必要な物ばかり。
抱えた荷物を落とすまいと気をつけながら、ズレたメガネを人差し指で整える。
そんな時だった…
「………クレア…………ティージー………」
どこからか聞こえた、何者かの名を呼ぶ声…
その声は、蚊の鳴くように小さく、どこか掠れ、悲しみを含んでいた…
助けを求めるような不思議な声が、どこか引っかかり、気になったフジだったが、急がなければならない…
この薬を今かと待っている仲間がいるのだ。早く治療道具を届けなければ…
薬を先に届け、すぐに戻ってくればいい。
そう自分に言い聞かせ、先を急ぐ…
だが…
彼の足は、数歩進んだ後動きを止め、方向転換…
元来た道を引き返す…
声の主の元へ向かって…
抱えた荷物を落とさないように気をつけながら、小走りで先を急ぐ。
治療室が視界の端に映った所で、廊下を曲がった。
そして、彼の瞳に映ったのは…
廊下一面に広がる赤い液体と…
その上に倒れる沢山の仲間達の姿…
倒れる皆は、眠っているのではない…
遠くからでもわかる…
調べなくてもわかる…
皆、息をしていないって事が…
もう、救えないって事が…
目を見開き、青ざめるフジ…
抱えていた荷物が、腕の中から滑り落ちる…
瓶の割れる鋭い音が…
重たい何かが落ちる鈍い音が…
静かな空間に、これでもかと言う程響き渡る…
床の上に落ちた包帯が、コロコロと転がり、壁にぶつかって動きを止める…
純白だったその包帯は、赤い液体を吸い取り、その体を真っ赤に染めていた…

