人気のない廊下に、コツコツと、何者かの足音が響く…
どこか重たそうなその足音は、治療室の前にさしかかっていた…
俺は、何もできなかった…
彼女の心の支えになる事も…
彼女を死という闇から救う事も…
何も、できなかった…
目を伏せて歩く、紺色の瞳の彼は、グッと拳を握り締める…
そして、一歩一歩ゆっくりと歩を進めていた…
1つも人影がないその廊下…
その廊下とは正反対の、治療室の中から、1人の人物が姿を現した。
手にしていた資料に目をとおしながら、短い髪を掻く。
焼けた様子のないその白い肌は、どこか青白く、体調が悪そうだった。
資料のページをめくっていると、近づいてくる足音に気づいたのか、顔を上げ、その人物を確認する。
「シュウ。」
「…レオン、さん……」
名を呼ばれた事に気づいた彼は、伏せていた瞳を上げ、目の前の人物をチラリと見、再び目を伏せた。
「呼び捨てでいい。俺はそんなに偉くないからな。」
「は、はぁ…」
いや、その歳でここのリーダーの立場にいるんだ、偉くない訳がない…
そんな事を思いながら、微笑むレオンに返事を返すのだった。
「?どうした、浮かない顔して?」
「…いえ、何でも…」
どこか様子の可笑しいシュウに気づき、レオンは彼の顔を覗き込むが…
シュウは彼と目を合わせようとはしなかった…
そんなシュウを見て、レオンは首を捻る。
そして…
「うーん……熱は、なさそうだな。」
シュウの額に手を当て、体温を調べると、異常はないと微笑んだ。
突然額に手を当てられたシュウは、驚いたように顔を上げ、レオンを見つめる…
初めてだった…
こんな事されるの…
人に心配されるなんて…
気遣ってくれるなんて…
産まれて今まで、味わった事なんてなかった…
知り合ってまもない人が、優しくしてくれるなんて、思ってもみなかった…
人の心は、こんなに暖かいんだって…
初めて知った…
家族みたいだった…
自分を心配してくれて、
優しくしてくれて、
思ってくれて…

