血の気の失った青白い肌は、いつものように血色の良い肌に戻り、虚ろだった瞳は、どこか強い物を感じた…
右手の甲で赤い十字のマークの付いた頬を拭う…
すると、その傷は跡形もなく消え、始めからそこには存在しないようだった…
「この世を救う力になる事を…」
ローランとの距離を縮めながら、彼は掌を下に向け、右手を横に延ばす…
その指先から腕までに漂う以上な魔力…
魔法も唱えていない筈…
だが、彼の周りの精霊達は、彼の思いに従うかのように、彼に力を貸す…
伸ばした指先から肘までを、強い風がグルグルと巡っていた…
彼の赤い髪や、服を揺らす…
その風は、遠くに立つローランの髪までも揺らしていた…
「何だ…この、魔力は…」
金縛りにあったかのように、その場から動かないローラン…
強い魔力を宿すライナスを見て、額に汗を浮かべていた…
「約束したんだ…生きて、帰る事を!」
鋭い刃を持つ風を腕に纏い、タンッと地を蹴ると、立ち尽くすローラン目掛けて一気に飛ぶ…
「あぁぁー!」
動けない様子のローランに、風の剣を振るう…
シュッと空間を斬るような音と共に地へと足を付いたライナス…
剣を振り下ろした時に感じた違和感…
首だけを後ろに向け、右手の力を抜き、魔法を解く。
「逃げんなよ…」
後ろに向けた視線を元に戻しながら、ボソッと漏らすのだった…
ローランのいた場所にはもうその姿は無く、霧が漂うのみ…
ローランは、ライナスの攻撃を受ける前に姿を消し、ライナスの剣は空を斬ったのだった…
腕に巻きつく風は、彼の腕から離れ、辺りに散らばる。
大きな風が吹き、辺りの草花を揺らし、噴水の水を波立たせた。

