辺りを見回しても、その姿は見当たらない…
あるのは、先程から何も変わらず流れ続ける噴水と、濃くなる霧のみ…
時間のみが、無惨にも過ぎて行く…
「…?」
辺りを見回し、再びローランへと目を戻す…
そこには、何かを企むように笑うローランの姿が…
何か可笑しい事に気づいた…
だが…
「…うっ…!!」
太股に走るこれ以上にない激痛…
そして、膝、臑、足首へと伝わる液状の何か…
「っ……」
恐る恐る目を向けると…
彼の太股には、そこにはあるはずのない、血に染まった触手が生えていた…
彼の太股を触手が貫通していたのだ…
その指から落ちる、赤い滴…
地面に、模様を形作ってゆく…
「クッ……ハァ…ハァ……」
その場から動けず、ただただ、そこにない筈の触手を見つめる…
すると、その触手は、彼の太股から消え…
それと共に走る激痛…
「ぅっ…ヴァァァァアァァーー!!」
引き抜かれた触手…
太股に開いた風穴…
大量に流れる赤い滴…
あまりの激痛に、耐えかねたライナスは、悲鳴を上げ、地面へと崩れ落ちた…
血が…
血が…
血が…
ドクドクと止めどなく流れる赤い血…
膝をつく彼の地面を、赤く染めていく…
「死ぬのが、怖いか?」
「!?」
すぐ近くで聞こえたその言葉…
手を伸ばせば、届く位置にいるのに、何もできない…
「死を恐れてるんだろう?」
死ぬのが…
怖い…?
死を…
恐れている…?
揺れる瞳…
速まる心臓…
流れる汗…
そう…だ…
俺は、カルーアとの約束と言って誤魔化していたんだ…
死を、恐れている事を…
俺は、死ねないんじゃない…
俺は、死を恐れている…
死ぬのが、怖い…
俺は…
血に染まる地面を見つめ、身動き1つ見せないライナス。
「フッ…」
そんな彼を見て、ローランは不適に笑うと、再び指を鳴らす…
静かな時の中、その音が響き渡る…

