陽は沈み、ひんやりとした空気が漂う。
人々は家へと帰り、道には誰一人いなかった。
霧が漂う中、噴水の流れる水の音だけが響いていた。
その中を歩く1人の少年。
襟足を延ばした赤い髪。
暗い目をし、足下を見つめる彼。
ただひたすらに歩を進めていた。
「カルーア……」
ふと零した何者かの名…
彼が心を許したある城のお姫様である。
伏せていた目を上げ、月のない空を見上げる。
悩むようなそんな表情で…
『ライナス、生きて、帰って来て下さいね。
私(ワタクシ)には、貴方しか、頼れる者はいないのです…だから…』
雲が覆う空に、銀色の長い髪の、華やかな笑顔の少女が見えたようだった…
『DRAGONの主様にお伝え下さい。私は、貴方を信じておりますと…この世を救って下さると…
頼みましたよ、ライナス。』
この世を救う…
救ってねぇじゃねぇか…
犠牲ばかりでてるじゃねぇか…
何が救うだ…
何が世の為だ…
何が…
『ライナス、貴方の力は、DRAGONの主様に絶大な力をお与えになるでしょう。貴方の力を主様にお貸しし、力になるのです。
この戦いが終わるまで、待っております。だから…
無事に、戻って来て下さいね、ライナス…』
カルーア…
俺はどうしたらいい…?
俺は、どう生きればいい…?
死ねない…
死ねない…
約束だから…
必ず帰ると約束したから…
彼の掌の中には、ネックレスが握られていた。
銀色の花をかたどった、シンプルなネックレス。
彼はそれを悲しそうな瞳で見つめると、グッと握り締めた。
ネックレスを見つめる彼の瞳からは、涙が流れそうだった。
「カルーア……っ?!」
再び漏らした彼女の名。
彼女の名を漏らした瞬間、歩を進める彼の肩に痛みが走った…
痛みへと手を伸ばし、クルッと身を反転させ、背後へ振り返る。
「……」
が、そこには誰もいない…
押さえた肩へと目をやると…
「っ……」
肉を裂くように傷があり、血が滲んでいた…

