この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐

大型の中継車内


動物園までの移動中、俺はスタッフにより身辺を整えてもらった。


顔や汚れた体を拭き、疲れた顔をメイクでカバーする。


衣装も新しいものに着替え髪もセットされた。


「こんな感じでどうですか?」


メイクの男性が鏡を向ける。


「あ…あぁ…大丈夫だ…」


俺はひきつりながらも笑顔で返した。


はっきり言うと見た目なんてどうでも良かった。


今も拘束されているであろう美代を思うと…


俺の気持ちはそれどころじゃなかった。


しかし、泥まみれでテレビに映る訳にはいかない。


今から撮影するのはあくまでもお茶の間に向けた楽しい番組なのだ…。


あのビデオの事は、TV局内でも報道フロア内の極秘機密になった。


漏洩を防ぐために。


だから、今俺の目の前にいるメイクをはじめ


照明や音声、カメラマンなど、ここにいるほとんどのスタッフは今日ただの撮影だと聞かされているのだ。


「…にしても、いきなり生放送とかびっくりっすよね~」


「俺も夜勤明けの休み返上っすよ…」


「まぁ確かに今、話題だからねぇ?数字の為には俺らの犠牲も仕方ないんすよ…」


いきなりの生中継に人手も時間も足りず、スタッフは寄せ集めに近かった。


尾崎の権限とはいえ、いきなり招集されたスタッフは小言のひとつも言いたいのだろう。


「どうも…すみません…」


わざと俺に聞こえるように言われたが、俺は頭を下げるしかなかった。