この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐

あの日…


大学に進学する都合で美代が、
この家を離れることが決まった日――――――――…








それはまだ


3月の寒さが残る日だった。



その日の晩も俺は伸太郎と風呂に入っていた。


薪の燃える香りと、白い湯気が充満する浴室で


伸太郎はうさぎの俺を見ながら独り言を呟いていた。


「ついに美代が出ていくなんて淋しいよなぁ、マサル」


天井からポチャンと滴が落ちる。


『そうだな。しかも美代はボケてるから変な男にひっかかりそうだよな』


俺は淋しがる伸太郎にそう答えた。


もちろん、その頃の俺の言葉が伸太郎に通じないのは承知の上で。


そんな俺にふと、伸太郎が真剣な目をして言った。


「マサルが美代を見てやっててくれんか?」


『―――…え?俺が…?』


「マサルが美代についてくれれば、俺ぁ安心してアイツを送り出せるんだがなぁ」



伸太郎はそう言うとジャバジャバと浴槽内で顔を洗った。