この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐

玄関では金魚鉢の中から又吉が俺をジロリと見る。


余所者に対して警戒心を剥き出しにする又吉。


又吉は小さな体の割りに態度だけは昔からでかい。


俺はそんな又吉が、うさぎの頃から少し苦手だった。


「よっ…久しぶりだな」


俺は一応、又吉にも挨拶をした。


苦手だからって無視はしない。


俺はそんなに心の小さい男じゃないからな。


『…!!?』


いきなり金魚の言葉を喋る人間の俺に又吉は口をパクパクさせた。


「何驚いてんだ。俺はマサルだぞ」


俺はあえて冷静にそう言うと、指で金魚鉢をつついた。


前よりも小さく見える分、又吉がなんだか可愛く見える。


『……!!?』


又吉は驚きのあまり金魚鉢の中で溺れかけた。


くくっ…


俺はこっそり笑うと、そのまま家に入った。