「じゃあ、アキラの握る寿司で今後の寿司の好き嫌いが決まるかもしれないね?」


夏美はにやりと笑ってヒゲ男にプレッシャーをかけた。


「う…腕は半人前だけど愛情だけは親父にも負けねぇぞ!」


そう言いながらヒゲ男は寿司を握りだす。


一体、俺の寿司にどんな愛情を注ぐつもりなのか…



そしてヒゲ男は


美代の前に卵の寿司を、俺の前には赤いネタの寿司を置いた。


「やっぱり寿司は鮪だろ。初めてだからサビは軽めにいといたぜ」


ヒゲ男はへへ、と得意げに俺に言った。


「サビ?」


「マサルさん、わさびのことだよ」


首をかしげる俺に美代が教えてくれる。


「あぁ、わさびか」


しかしわさびなんてどこに?


わさびを探すようにペラリとネタをめくってみると緑色のわさびが隠れていた。


そんな俺の行動をみて


「マサルってマジで変わってるな…」


ヒゲ男は興味深げに俺を見た。


「いただきます」


俺は鮪の寿司を指でつまむと、一度生け簀の中を見た。


“いただきます…”


心の中でもう一度言うと、俺は寿司をぱくりと口に入れた。