「マサルと美代ちゃん、何が食いたい?」



黙り込む俺を促すように板前姿のヒゲ男がカウンターの中から言った。


寿司はヒゲ男が握ってくれるらしい。


ヒゲ男の親父の好意で、わざわざ貸し切りにまでしてくれていた。


「私たまごが食べたい」


「お!美代ちゃんはなかなか通だな」


「俺は…寿司を食うのは初めてだから…任せる」


寿司がどんなものかぐらいは知っているが


この魚たちを前に俺は何を頼めば良いのかわからなくなった。


そんな俺の言葉に3人は一斉に俺を見る。


「え?マサルさんお寿司食べたことないのぉ!?」


「あ?あぁ…生魚は食ったことがない。」


たまに美代の親父の伸太郎が、米と一緒に焼き魚をくれたりはしていたが…


生は初めてだった。



「寿司を食わない人生ってマサルおかし過ぎるぞ」


ヒゲ男は信じられないという顔を俺に向ける。


「し…仕方ないだろ」


みんなと違って人間歴が浅いんだから。