この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐

――――――
―――…












美代が去って数時間。







ほぼ無人だった小さな出店の前には、今や客が殺到していた。




「焼きそばと焼きトウモロコシ2つくださぁい」


「こっちはいか焼き3つで~す」


「かき氷のイチゴとみぞれを、それぞれ練乳付きで」


「ちょっ、こっちが先に並んでたんだけど!?」


「お兄さ~ん、うちらはポップコーン下さい!!」


鎮まらない熱気に、止まらない注文。


その光景はまるで飴にたかる蟻の大群のようだった。







「はいはい、お姉ちゃん達喧嘩は堪忍やで~?焼きそばとトウモロコシお待ちどぉ」


喧騒と熱気の中


山吹が焼きそばとトウモロコシ片手に店内から出て行くと


客達の声はたちまち黄色い悲鳴に変わった。


「きゃ~マジでカッコいい///」


「店員さんハーフですか?」


「か…彼女はいるんですか?!」



ここにいる客の本当の目的は山吹らしい。


キャップ帽の下で山吹のひとつに束ねたブロンドの髪が


陽の光に透けてきらきら輝く。


噂が噂を呼び


山吹はアイドルのような存在になっていた。