この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐

しかし山吹は大きく首をふる。


「あかんあかん。金がない奴には売られへん」


「な……ッ」


俺は思わず顔を歪めて山吹を見た。


なんで…


全部知ってるくせに、なんでこんな意地悪を言うんだ?


山吹の正論なんて言われなくても分かってる。


分かっていてそれが出来ないから俺だって苦しいのに…


「…………ッ」


俺は何も言えず唇を噛んだ。


そんな俺を見て山吹は言った。


「なんやなんや?そんなにポップコーンが欲しかったんかい」


「………ちが…」


しかし俺が否定する間もなく、山吹はニヤリと笑った。


「ほなマサルさん、半日ここで労働決定やな~」


そう言いながら山吹は店から出てくると


ご丁寧に用意されていた黒いTシャツと茶色の腰エプロンを俺に手渡した。


「え…?」


俺はそれを胸に押し付けられながら山吹を見る。


「ポップコーン代を体で払え。一生懸命働いてくれたら余分にバイト代も出したるわ」


「……………」


呆ける俺に山吹は小さく片目を閉じる。


そこで初めて俺は理解した。


きっと…俺が無一文で困っているのを銀が山吹に伝えてくれたのだ。