「どうぞ、楊枝です」
零次朗は受け取ると、よく見た。間違いなく普通の楊枝である。
「こんなことができるなんて、知らなかった。小太郎は知っていたのか」
《ああ、知っていた。説明しようとしたら、トイレに駆け込んでしまったから、説明し損ねた》
「零次朗君、小太郎に罪はない。
これからもっと知らなければならないことが、山ほどある。
が、時間は限られている。
最低限のことを覚えたら、帰ることができる。
君はこの村の外で生きるのがよいと、評議会で決まりましたから」
甲三郎は零次朗に微笑みかけた。
「本当ですか。帰れるのだったら、何でもします」
武寅がお茶を飲み干し、咳払いをした。
「さ、朝食はそろそろ終わりにしよう」
「零次朗君、この後村のはずれにある集会場に来てください」
「わかりました」
帰れると聞いて零次朗は、心が躍った。
彩花に会いたい。
それが一番強い気持ちだった。

