朝食も終わりに近い頃、零次朗が武寅に言った。

「ひとつ訊いても良いですか」
「ああ、いいとも」

食事が終わって、お茶を飲んでいる武寅が答えた。

「いつまで俺はこの村にいるのですか。学校もあるし、彩花にも、ろくに話もできずに別れてきたし。もう、戻れないのですか」

「いや、そんなことはない。甲三郎に世話役を任せたのは、最後の仕上げをするためなのだ」

「最後の仕上げ?」

「そうだ。それが今来ている霊糸で編まれた霊服の使い方だ。普通はこの村で生まれたときに、すぐ着せるのじゃがな。最初は慣れるまで、大変かもしれん。それに、霊服には特別な使い方があり、それを身につけるのが仕上げということじゃ」

「小太郎はそんなこと言ってなかったけど」

「零次朗君、霊服は使いようによっては、武器にもなるのです」

甲三郎が説明を始めた。

「小太郎が言ったのは衣服としての機能です。それ以外にも、霊糸を媒体として使う方法があります。何もないところで、霊気を形にするのは難しいですが、霊糸があれば簡単にできるようになります。例えば、この指先を見てください」

そういうと、甲三郎は右手の人差し指を立てた。

よく見ると、指先から五センチほど、白い糸のようなものが、ゆらゆらと揺れながら出ていた。

「これが霊糸です。この霊糸に霊気を送り込みます」

甲三郎は自分の右手の人差し指を見つめた。

するとゆらゆら揺れていたのが止まり、まっすぐになったかと思うと、それを左手で取り上げた。