長い坂が終わり、駅前へと続く太い道路に突き当たった。俺は、そこを右折して駅方面に進んだ直後、すぐに左折して、住宅地の中に入っていった。

道路が狭いため、車の通りが少ない線路沿いに出るためだ。

平地となり、ペダルはさらに重くなる。それでも平然とそのペダルを漕ぎつづけた。

「…ねぇ、私、重くない?」

「重い」

俺が即答すると、奈緒は俺の背中をポカポカとグーで叩く。

「暴れるなっ、バランスが崩れるっ」

俺はわざと自転車をフラフラさせて、街灯の下を走らせてみる。彼女は小さな悲鳴をあげて、俺の背中をギュッとした。

「……似てる」

奈緒は俺の背中でつぶやいた。

「あ? 何か言った?」

「なんでもない」

彼女は、首を振って風の音に負けないくらいでかい声でそう答えたが、俺にはちゃんと聞こえていた。

兄貴に似てる、か…

俺の背中を抱きしめて、今あなたが何を考えているか…

俺には、ちゃんと解る。

あなたは、多分学生のころを思い出しているはずだ。

特別だった兄貴との時間を思い出しているはずだ。