黒ユリのタンゴ

ボスは、ふと思い出したように私にこう言った。


「ところで、『あの本』は活躍してるかい?」


「ユーリ、あの本って・・・もしや」

智香の顔が、ちょっとだけひきつった。口がパクパクしたが、その後は言葉にならない。


そのまさかだよ。

あなたが子供っぽいだの馬鹿にしたアノ本の、持ち主ですよー。



智香を横目に、私は素直にお礼を伝える。


「すごくわかりやすいです。百人一首に興味が持てましたし」

ボスは嬉しそうに目を細めている。サラリとした黒髪がいつも美しい人だ。

「よかった。頑張ってね。」


席を離れざま、ボスは私に指令を告げた。

どうやらこれが目的だったらしい。

(忘れてたわけじゃないけど)ついに生徒会の一員としての仕事が本格的にスタートするようだ。


「そろそろ大会の準備もしないといけないんだよね。

金曜の放課後、生徒会室集合ね。ヨロシク♪」

ボスが行ってしまった後で、私はニヤリと智香に笑っていた。