黒ユリのタンゴ

『漫画でよく分かる 小倉百人一首』の話を聞くなり、智香のよく通る笑い声が食堂に響き渡った。



「なによ、あんた。小学生向けって・・・」

「なんだってそんな本を選んだのよ? あー、お腹イタイ」

「毎晩一生懸命、そんな漫画を読んで夜更かししちゃってたの?」


「どういういきさつで」例の本を使うことになったのか。

それを話し出す前に、この有様だ。

ここまでコケにされるとさすがにムカついてくる。
いきさつについては黙っておいてやろう。あとでびっくりするだろうけど。


実は、私にはちょっとした確信があった。


「ユーリも自分で小学生並みだってわかってる、ってことじゃん」


そう言われては、だまっちゃおれない。半分得意げになって言い返す。

「なによ、今度の百人一首大会って全員参加じゃん。
しかも生徒会主催とはいえ、文芸部の協力で行われるんだよ。

智香こそ憧れの先輩にいいところ見せたいんじゃないの?」


「いいのいいの。ダメな後輩もかわいい、って言うじゃない?」