夏の事。

『あかりなんて、消えちゃえ。
バイバーイ」


牛舎で、牛の搾乳機を洗っていた際突然、「あの時」の事がフラッシュバックした。


ザーッとホースから流れている水をぼんやりと眺める。


ちょうど通り掛かったタケルが

「…あかり?どうしたんだ?お前。」


と声を掛けた。


いつもなら

「こらぁ〜!ぼんやりすんなぁ〜!!」


と怒られるのに、多分本当に神妙な顔をしていたらしい。


あかりは

ハッとなり


「ううん、なんでもないの」


と返事をした。


(こいつ、変な所で鋭いんだよなぁ…)


なんて思いつつ


「そ、そういえば、前から気になってたんだけど、デラって乳房炎にかかってないのに、なんで搾乳機付けないの?」

と話題をすり替える。

デラはいつも搾乳している牛達と、少し離れて過ごしており、乳房炎にかかってる牛なら「乳房炎」と、立て掛けられている黒板に書いてあるのだが、デラの場合は何か良くわからない事が書いてある為、疑問に思っていたのだ。