「で?抱きしめたのか?」

「…ん。」

タケルは帽子を深く被り俯いた。

日曜日。
モォォ〜と放牧している牛が、作業をしてるタケル達の背後に近寄りお尻や背中を舐める。


ハイハイ、今、ご飯補充しますからね〜とシンは言いながら、近くに固めてある牧草をほぐしながら

タケルの仕草を見て

「なんですか?少し後悔してんですか?タケルくん」


と言う。


タケルはパッと帽子を戻し、


「そ、そんな事ねーよ!!」


と作業に戻る。


シンは黙々と牧草を餌やり場にやりながら


「けどよ、お前、ホントにそう思って、あかりちゃんに言ったんだろ?」


「そうだけど…」

「なら気にする事ねーじゃねーか。
ガンガン行っちゃえ。」


「…行っちゃって良いのかな……?」

ピタリ、と、タケルは作業を止め、言う。


「そりゃさ、あかりちゃんの気持ちってのがどうかは知らんよ?

けど、お前はあかりちゃんの過去も「それで良い」って受け入れたんだろ。

お前が気にする事ねーって。」

シンは黙々と餌やり場にゆっくりとしたペースで来る牛に「ハイハイ」と言いながら、牧草を補充する。


「で、でもよ、最近あかりの様子が変なのよ!!

目が合ったら、バッと目ぇそらすし、朝の作業一緒にやって、手が触れたらなんか猛スピードでどっか行っちまうし…!!!」


シンは、ピタリと手を止め


「ははーん…」


と、にやりと笑った。