夏の事。

タケルは

「俺んちの仕事は単に牛乳を物流に出す仕事なんだ。
だから雌牛しか相手にしない。
雄は…まぁ、血統の良いのは種牛で残されるんだけど、乳牛の雄は、酪農では使い物にならんから売られちまう。」

「そ…なんだ…」

あかりはその言葉になぜだか分からないが悲しい気持ちになった。

「俺何回も雄牛が売られていくトコ見てるけど、あんま知られてないみたいだよなぁ〜…」


「…初めて知った…。」


あかりはやるせない気持ちでいっぱいになる。


「ん…。
俺、それを始めて知った時は、「なんの為にこの牛は生まれたんだろ」って思ったよ。
産まれた時がきっと自分の中で衝撃的だったんだな…」

タケルは遠い目をして呟いた。

「…………。」


「まぁさ、そんな風に思うのも、多分「エゴ」なんだろうけどな。

その後何度もお産に立ち会って、何度も雄牛だった事もあるから、その思いもどこかに追いやってた。

けど、いっつも検診で性別がわかる時「雌であるように」って祈ったよ。

で、俺、物が残せなくなった。

良くわかんないけど、残しちゃいけない気持ちになったんだ。」

苦笑いをしながら、タケルは呟いた。

「…………」
あかりは何も言えなくなった。


少し沈黙が走り

容器に入った乳がからっぽになった頃。


あかりは最近感じていた思いを呟き始めた。


「あともうちょいで、私の中にいた子、産まれてたんだよね…」


「…え?」


『予定日は夏頃になります』


あかりは、病院に行った時に医師に言われた言葉を思い出していた。