「そうだよな。馬鹿なこと言ってごめん。」

「でも待って!
すっごく遠くに行きたい。誰にも会わないような、遠くに。」

鈴奈は小さな両手をうんと広げて無邪気に笑ってみせた。
久しぶりに鈴奈の笑顔を見た気がした。
困った笑顔ではなく、本当の笑顔。

「すっごく遠く?」

「うん!ちょー遠いとこ!普段はあまり行かないような。」

「でもあんまり遠いと帰って来れないぞ?」

「そっか。やっぱだめか。」

残念そうに笑う鈴奈。

「やっぱり待って。そんな遠くはないけどちょっと電車で行ってみようか。
誰も会わないところ。遠くなくても行けるだろ。」

「え?」

鈴奈の手を引いて歩き出す。
自分がちょっとだけ格好良く思えた。