「…部。日下部!!」


───ツン、ツン


「オイ、蒼斗ッ」


背中をつつかれて恭平の指の先を追うと、化学の永盛が黒板を指差し、オレを睨んでいた。


「日下部。どうもいつもに増して今日は授業に身が入らんようだな?」


「あ…アハハ。嫌だな、先生。オレってホラ、教科書が読書並に好きなモンだから、つい見入っちゃって…」


「そうか。日下部が教科書を逆さまにして読むほどの読書好きだったとはな。じゃあ、さっきの問、簡単に答えられるな?」


「あ…えっと…。ミトコンドリア???」


クラス中に笑いが起こる。


「生物の問なら正解と言いたいところだが、今は化学だッ。もういい、後ろ答えろ」


恭平がオレを御愁傷様とばかりに首をすくめて、すんなり永盛の問に答えた。


はぁ…。


なんだかな。


《チェリー》の活動のせいで授業も遅れがちな上に、この始末。


都内でも有数の進学校だ、落ちこぼれるのも時間の問題かも、な。


残りの時間、懸命にノートを取りながら、終業のチャイムを待った。