「蒼斗…。蒼斗ぉ…!」


「大丈夫、もう血は止まったから。今、絆創膏探すから待ってろよ」


立ち上がり水を止めて背を向けると。


果夜は。


果夜、は…。


オレの背後から細い腕を絡ませた…。


「果夜…?」


「…っ…っ…。お願い…少しだけ、もう少しだけ…。蒼斗、どこにも行かないで…」


背中から伝わる果夜の鼓動は、少しだけ早いような気がした。


どうしたんだよ?姉ちゃん、と。


口に出せば、またいつもの弟。


だけど、違う。


違うんだ。


離れてほしくない。


真正面から果夜を強く抱き締めたいのは、オレの方で。


でもそうしちゃいけない、だから。


せめて背中で。


泣かせたい、感じていたい。


「オレはどこにも行かないよ。果夜の傍にいるさ」


と。


擦れた声で言うのが精一杯で。


勇気の出せない臆病なこの恋を。


封じる手立てを知らずに…。