ふたりで歩きながら学校へ向かう。昨日までは一人で歩いていた道を、隣の歩幅に合わせて少しだけゆっくりと。
笑は急いでいたけれど、実はそこまで時間が迫っている訳ではない。俺も笑が遅れること前提に早めに迎えに行ったのだし。
これでちゃんと間に合うことが分かったらきっと明日からは今日より十分は遅く起きてくるのだろう。馬鹿なのだ。そんな所も可愛いと思ってしまうのはもう、仕方ないことだと随分前に諦めた。
二十センチ程下にある茶髪が光に透ける。
たわいもない会話を重ねながら、歩く度に揺れるそれを時折掠った 。
「ホント笑ってどんくさいよな。靴下くらい前の日に用意しとけって」
「うぅ……返す言葉もございません」
「そんなんじゃ、いつまで経っても嫁に行けないな」
からかう様に口にするこれは、嘘のようでホントに思っている。きっと誰にもやれない。
「いいもん。英ちゃんがもらってくれるから!」
「は?」
頬を膨らました笑がそのピンク色の唇でとんでもないことを言い放った。
こいつ、何を言っているか解っているのか。
笑にとってはきっと何気ない一言だろうけど、俺の心を乱すには十分だった。
分かっていないのだ、こいつは。自分の言葉の影響力を。
「なん、で」
「だって小さい時に約束したんだもん。英ちゃんがあたしをお嫁さんにしてくれるって」
忘れたの? そう言いたげな瞳にパチクリ。眩暈がしそうだ。
ああ、そうだった。こいつはそういう奴だった。この天然にいつも振り回されてきたのではないか。
「あー……、言ったような言ってないような」
「ひどい! 絶対言ったのに!」
こういうことを普通に言うから、時々勘違いしそうになる。
でも違う。こいつは俺を幼なじみとしか思っていないのだ。



