とりあえずは目立った怪我もないようだし、涙目になっていた笑に痛いところはないか聞くと首を振っていたので大したことはなさそうだ。


「気を付けないとその内怪我するからな?」

「はあい……」


顔は呆れたように装っているけれど、笑の軽さに鼓動が速くなるのを感じた。

抱き上げるのも初めてではないくせに、単純すぎるだろう俺の心臓。

せめて笑には伝わっていませんようにと心の中で祈っておいた。信仰心もないので期待薄だが、右側だったので多分大丈夫だろうと思う。神よりも笑の鈍感さに期待しよう。



「笑、ほら靴下」


呆れ顔のおばさんが黒いハイソックスを片手に近付いて来たので、笑をそっと降ろした。


「ありがとうお母さん」

「いいから早く行かないと遅刻するわよ?」

「へ? ……きゃあっ! え、英ちゃん、行こう!」

「ああ」


「いってらっしゃい」


おばさんの言葉に、時計を見た笑が顔を青くして。そんな笑に引っ張られるようにして家を出た。


慌ただしい朝。