「美味しいー!」
「たくさん食べてね笑ちゃん」
「うんっ、ありがとう、おばさん」
にこにこと頬を緩めながら、スプーンを握っている笑はとても幼く見える。
その隣で黙々と箸を進める優李は、中学生とは思えない程大人びていて(俺にとってはいつまでも弟だけれど)、どちらが姉で弟なのか。
そんなことを思いながら軽く笑みがこぼれた時、優李の笑よりも黒い髪が耳からハラリと落ちて。
あ、一緒に食べそう。
前に座っていた優李へ手を伸ばして、ちょいっと口元から髪を避けてやった。
「ん……、ありがと」
再び髪を耳にかけ直した優李の礼を受け取って、長めの黒髪を見つめた。
髪伸びたんじゃね、そうかも、切らねえの、面倒で、お前なあ…、そんな風に会話を交わしていた俺達をいつの間にか母さんが見詰めていた。
はあ…、と息を吐いたかと思うと、
「優ちゃんも可愛いし、笑ちゃんも可愛いし……」
なのになんで家の子はこんな……、なんて失礼な言葉も一緒に飛び出した。
「可愛くなくて悪かったな」
「おばさん! 英ちゃんは可愛くないけど良い子だよ」
「笑、それバカっぽい」
「ゆうりっ!」
すっかりお馴染みと化したこの光景。
俺の親父は単身赴任中であるため、普段は母さんとふたり。会話が無いわけではないけれど、どちらかと言えば静かな食卓だ。
そこに笑と優李が入ると、途端に賑やかになるのだ。大体は、笑と母さんだけれど。
ただ、この二人の高いテンションには未だに慣れていない。
「ほら、そろそろおじさん達帰ってくるんじゃねえの?」
「ホントだ。じゃあね、おばさん、ごちそうさま」
「ご馳走さまー」
「また来てね」
「うんっ」
午後八時も過ぎた頃、手を振りながら帰って行く笑と優李。笑は言わずもがな、優李も癖のように小さく手を振る姿は兄の欲目も含んでそれはもう、かわいい。
あと、どうでも良いけど笑と母さんって仲良いよな。
いや、別にどうでも良いけど。
……笑と優李は、俺の、幼なじみだからな!



