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昼休み。いつもと変わらない母さんの弁当を食べていると、パンを買いに行っていた水樹がパックの牛乳を飲みながら教室に戻ってきた。両手には焼きそばパンと菓子パンがふたつ、それと頼んでおいたイチゴミルク。
椅子をひいて、水樹は早速菓子パンを一つ開けた。半分ケーキのようなそれを昼食にするのは男子高校生として正直信じられないが、いつものことなので口には出さない。それ、おやつじゃん。
「今失礼なこと考えてるだろ」
「いや別に」
「弁当にイチゴミルク合わせる英斗にとやかく言われたくないんだけど」
「まだ何も言ってねえし、イチゴミルクはいつ飲んでも美味しいだろ」
「俺のケーキサンドだっていつ食べても美味しいんですけど!」
「あっそ」
冷たい! と騒ぐ水樹を無視してイチゴミルクにストローを挿して吸い上げる。特徴的な香料と甘さが広がって、なかなか消えない。イチゴミルクはこの人工的な感じが良いんだ。
「あ、そういえば」
焼きそばパンの袋を開けながら、思い出したとばかりに話を変える水樹に顔を上げれば、何でもないように口を開いた。
「──さっきそこで笑ちゃん告られてたよ」
「っ、げほっ!」
咽せた。
咳き込む度に、気管を甘ったるい香りが侵す。
「大丈夫かよ?」
「、え、は、」
「落ち着けって」
「告られてた……って、誰に」
「知らない。ネクタイの色赤だったし、一年っぽかったけど」
ペコ、と間抜けな音を出して牛乳のパックがへこむ。
「……まだ二日目なのに」
「かーわいい笑ちゃんに一目惚れする奴くらい幾らでも居るだろ?」
「それは、そうだけど」
飛び出そうな舌打ちを溜め息に変えて、イチゴミルクのパックへとストロー越しに送り出す。
声の代わりにピンク色の紙がポコンと音を鳴らした。



