無垢な君を押し倒す



結局、ぼんやりした頭で授業に集中できるはずもなく、それから二回当てられてチャイムが鳴った。

はあ、と零れた溜息に答えるかのように水樹が振り返る。


「なに、ほんと、どうしちゃったわけ?」

「うるさい笑うな」

「どうせまだ笑ちゃんのこと考えてたんだろ」

「……別に」

「いや、そこで嘘吐く意味がわかんねえし!」


ウケる、とケラケラ笑う声に呆れる。あれだけ笑っておいてまだ笑えるのかよ。

いい加減うるさくて、物理的に黙らせてやろうかと考え始めたとき、

「ねえ、」

高いソプラノが遮った。声につられて見上げれば、クラスメートが立っていた。


「次の授業、教室変わるって。生物室」
「おー、さんきゅ」


日直だったか、女生徒はそう言うと他の人にも伝えに行くのだろう。振り返ったスカートの裾がひらりと翻った。


「あ、」

思わず漏れた声に反応して、どうした? と水樹が首を傾ける。


「スカート……」

「は? なに、スカート?」

「忘れてた」

「え、なにが?」


歩くたびに揺れる笑の短いスカートは、誰かの目に止まるだろうか。俺と同じ様に心を揺らすのだろうか。

兄心だなんてとんでもない。いつまでもこんな事を気にかけるのは、結局のところ、誰にも見せたくないというクダラナイ独占欲のせいなのだから。


「あー……」

「お前はさっきから何なの?」

「女子のスカート丈注意するってキモイ?」

「は?」