無垢な君を押し倒す



出席を取り始めた担任の声を耳に入れつつ、硬い机に肘を着いて窓の外へと視線を投げる。

アルミの窓枠に閉じ込められた空はバカみたいに晴れ渡っていた。


そんな春の麗らかな青さに浸るわけでもなく、頭は笑のことで埋め尽くされているまま。

そもそも俺の頭は吹っ切ったある日から常に半分以上は笑のものなのだ。それに加えて今日は何だか気まずい雰囲気まで作ってしまった。

……いや、俺が作ったわけではないけれど。元々の原因は俺にあるので、やっぱり今日のは俺のせいだろう。

笑の幼馴染として生きてきたこの十数年間で喧嘩したことなど、それこそ両手では数えられない程あるが、ここ数年は俺が恋心を自覚したこともあって滅多にそんなことはなかったのに。


喧嘩ならまだましだ。俺が折れて仲直りするだけなのだから。

今日のは笑が何を思ってあんな顔をしていたのかが分からない分、どうしたらいいのか全くわからない。

急に囲まれたのが嫌だったのだろうか。

……嫌だよな。高校生活二日目で上級生の女子に囲まれて騒がれるなんて。


ああもう、やっぱり明日からは別々に登校するべきだろうか。


「…………かわ」


いやでも迎えに行かないと笑なら遅刻しかねない。今日でもう少し余裕があるとわかったのだ。きっとギリギリまで寝てしまうだろう。


「……りかわー?」


笑は何ていうだろうか。笑から別々に行こうと言われれば、そうするしかない。


「緑川!」

「え、あ、はい」


大声で名前を呼ばれ、ハッと前を向けば呆れた顔の担任が此方を見ていた。やべ、出席取ってたんだった。


「出欠の時くらい起きてろー」

「あー、すみませんー」


締まらない声の注意に謝罪の声を返すと、適当な性格の担任はそれ以上何か言うこともなく出欠の確認を続けた。

小さく吐いた息は机にぶつかる前に消える。

とりあえず肩を震わせる目の前の黒髪がムカついて、理不尽な衝動のまま椅子を蹴ってやった。