無垢な君を押し倒す



呆れたような、仕方ないとでも言いたそうな、そんな顔をして水樹は笑う。


「英斗は笑ちゃんのことになるとヘタレっつーか、引きすぎっつーか。いつまで『優しいお兄ちゃん』やるつもり?」

「いつまでも……」


笑が俺にそれを求め続ける限り。

笑が俺を兄として慕っている限り、俺がこの立場を放棄することはない。

優しさ、なんてものではない。怖がっているのは俺の方で、無くしたくないのも俺の方。


「バッカだねえ。そのうち限界が来るっての」


……そんなこと、わかってる。

それでも、この関係を壊すことはできない。 片思い歴よりも幼なじみ歴の方が断然長いのだ。


「頑固だねえ、お前も」

「……ほっとけ」


「英斗はさあ、」


と、水樹が何かを言いかけた所でチャイムの音がそれを遮った。


「また後でな」


同時に担任も教室の扉を開けたため、じれったそうな声を残してお節介な親友の小言は宙へ消えた。