少し汚れた廊下をだらだらと歩き、教室の扉を力なく開けた。
カラカラと軽い音がしてそのまま足を踏み入れる。
おはようと挨拶を飛ばしてくるのは去年と同じクラスメート。この学校にクラス替えはない。
掛けられる声に、同じ様におはようと返して自分の机に鞄を置くと、前の席に座っていた黒髪が振り返った。
ニカリと笑う顔は少し愛らしい、なんて口が裂けても本人には言わないけれど。
「はよー英斗、オーラが澱んでるぜ?」
「おはよう水樹(みずき)うるさいほっとけ」
挨拶と共に余計なことを口にする男は、中学の時から変わらないクラスメートである。中学一年生で声を交わしてから、五年間同じクラスだ。恐らく、来年も。
「今日も凄かったな」
にやにやと童顔を崩しながら水樹がそう言う。
「見てたのか」
「あれは、いっそ名物だし」
楽しそうに言う水樹にイラッとして、座っている椅子の脚を蹴ってやった。
椅子を傾けていた水樹は急に崩されたバランスに慌てていた。ざまあ。
「おっまえ、ばか!」
「うるせえ」
わあわあと騒がしい頭をペシンッと叩いて机に突っ伏した。
水樹に構っている余裕なんてないのだ。
俺の頭の中は笑のことでいっぱいで。
笑に関しては、どうしてか、情けないほど余裕がなくなってしまう。



