無垢な君を押し倒す



校門をくぐり、校内へと足を踏み入れる。その間も笑はずっと俯き気味で、隣に来ることもなかった。


靴を履き替えながら、本日何回目になるかもわからない溜息が口から零れた。

正直、笑が囲まれただけでこんなに動揺するとは思っていなかったのだ。中学の時も似たような感じだったが、周囲もこんなに圧倒するようなパワーはなかったし、笑も特に気にした様子は見られなかったのに。

しかし舐めていた。笑を疲れさせるつもりなんてなかった。習慣のように一緒に登校しただけなのに、朝からこんなことがあれば笑だって嫌だろう。

もしかしたら明日からは別々に登校すると言い出すかもしれない。


……いや、それはない、か?

小学生どころか幼稚園の頃から一緒だったのだ。同じところに通うのに一緒じゃないなんて考えられない……けど……。

高校生ともなれば考えが変わっても不思議ではない。笑がそう言い出す可能性もゼロではないだろう。


一段と重い溜息が漏れた。



「……じゃあ、また放課後な」

「うん……」


所謂マンモス校であるこの学校では、学年が違えば教室がある棟も変わってくる。

一年棟と二年棟が別れる西階段に来ても、声も元気がなさそうな笑は俯いたままだ。先ほどから旋毛と前髪しか見ていない。

顔が見たくて頭を撫でれば意図を正しく読み取った笑がゆるゆると顔を上げる。


心なしか少し眉が下がって、困ったような顔。


「えみ?」
どうした?


なるべく優しい声で問いかけるが、笑は何も答えずふるふると首を横に振った。

しつこく問い詰めることもできず、仕方なくもう一度頭を撫でて、じゃあなと教室へと足を向けた。