「ねー、どうなの?」
焦れったそうに尋ねてくる周囲に心の中で重い息を吐いて。
「いや、幼なじみ」
「へー、結構かわいいのね」
仕方なく関係を明かせば、今度は笑に興味深そうな視線を送っている。
笑が可愛いという事実は幼なじみの俺が一番よく分かっているし、結構なんて言葉いらないからそんなに見るな。
流石にイライラしてきて、理不尽に八つ当たりしていると。
「ん?」
くんっとブレザーを引っ張られた。
そのまま斜め後ろ下に視線を向けると、俺の紺色ブレザーの裾を握り背中に隠れるようにしている笑がいた。
一瞬、息が詰まる。
不安気な瞳が此方を見上げて、長い睫毛が小さく震えた。あざといとも言えそうな上目遣いに眩暈がしそうだけれど、きっとこの天然は俺がどんなダメージを受けているかなんて全く分かっていないのだろう。
どうでもいい。いつものことだ。けれど不意打ちは慣れない。かわいい。
……ああ、いや、そうじゃなくて。
「おい、あんま近寄んな。笑がビビってるだろうが」
「はいはい、ごめんなさいねー」
邪魔だとばかりに手を振れば、わらわらと集まっていた女子たちは満足したのか大人しく道を開けた。
「ったく。……ほら、笑行くぞ」
「う、うん」
戸惑う笑に声を掛け、人集りを抜け出す。
歩きながら斜め後ろをついて来る笑にチラリと視線を送る。俯いていて表情は見えない。
妙な空気が俺たちを包んで少々気まずい。
いや、どう考えても俺のせいなんだけれど。
何か考えているような笑の様子に、なんだか声を掛けるのも憚られる。
ああ、くそ。こんなつもりではなかったのに。



