まずい。
反射的にそう思った。俺にとって、また周りの女子たちにとってはいつものことだが、笑にとってはそうではない。
何よりこんな場面、勘違いされたら困る!
次々と飛んでくる挨拶に適当に返しながらここから抜け出そうするが、女子の壁に阻まれ中々前に進めない。
そんな俺たちを追い越しながら男共も挨拶を飛ばしてくるので賜ったものではない。
「ちょっ、お前ら落ち着け」
何故だかいつもより騒がしい気がする。春の陽気に当てられているのかもしれない、なんて今の状況では笑えない。
宥めようと声を掛けても、聞こえていないかのように依然と騒がしいまま。
もう少し大きな声を出すかと口を開けた、そのとき。
「ねー、英斗この子だれ?」
最初に話しかけきたくるくる茶髪が笑を見てそう言った。
「もしかして英斗の彼女?」
「えっ、このネクタイの色、新入生じゃん! 手早すぎ!」
「英斗ならありえるー!」
更にきゃあきゃあと高い声が伝染してゆく。完全に俺を置いて勝手に盛り上がっている周りに、深い溜め息が出た。
「お前ら余計なこと言うなって……」
俺の心情など知らぬとばかりに、ペラペラと頭が痛くなるようなことが赤い唇から漏れる。
笑に抱いた澱んだ想いを捨てようと、告白された子と付き合ったこともある。
それなりに努力はしたけれど、長く続いたことはない。
付き合っていた彼女たちは、どうしても笑と優李を優先してしまう俺に愛想を尽かしていなくなってしまった。
その周期が短かったということは自覚しているし、今となっては反省もしている。
結局、笑への恋情を諦めることをやめてしまったので最近は誰とも付き合っていないけれど、周囲に植え付けられた印象は変わっていないようだ。



