「あと三年あるんだから早く結べるようになれよ」

「……。英ちゃんが結んでくれたらいいよ」

「諦めんな」


じーっとネクタイを見て早々にそんなことを言う。たぶん、きっと、明日の朝も俺が結んでやることになるだろう。

……もしかして笑が不器用なのは今まで甘やかしてきた結果なのだろうか。


「……」

「英ちゃん?」

「いや、……うん、そうか」

「なに?」

「何で笑はこんなにも不器用なのか、理由がわかった」

「英ちゃんっ!」


もうっ、と怒る笑は 「そ、そんなに不器用じゃ……」とか何とかぶつぶつ呟き、チラリと窺うように此方を見てきた。


「ち、因みに……なんで?」

「……内緒」

「ええっ!」


なんでなんでと煩い笑を放って歩みを進める。教えて、甘えるのを止められてしまっては困るのだ。

主に、俺が。


小走りで追いかけてきた笑のスカートがひらりと揺れる。それを見て思い出した。

そうだ、スカート丈。


「えみ、「えーいとー! おはよう!」」


「あ?」


遮るように声をかけられ振り返ると、茶髪の長い髪をくるくると巻いて重そうな睫毛を付けたクラスメートがいた。

周りをよく見れば制服姿の生徒が沢山いる。もう校門は目の前だった。

笑に意識を全部注いで、気付かなかったというのは、ちょっと、流石に恥ずかしい。


「はよ」

「きゃー、英斗だ!」
「え、ホントだ」
「おはようー」


何でもないように挨拶を返すと、最初の奴の声で気付いたのか、あっという間に数人の女子に囲まれた。

それは毎日のことで、昨日までなら別段気にすることもないのだけれど。


今日は笑がいるのだ。