やっぱりさっき、
避けなきゃよかっただろうか。


先輩は、俺を抱きしめたりするのがやたらと好きだ。

人目の有る無し関わらずに、
きっかけがあればすぐに抱き寄せてくる。


そのたびに俺は苦しい思いをするのだけど
別に嫌いじゃない。

もう少し、
加減を覚えて欲しいとは思うけど。


「ありがとうございます」

改めて礼を言うと、
先輩は嬉しそうに顔を綻ばせた。

そして言う。


「……抱きしめはしないからさ、
 キス、していいかな?」

「駄目です。無理です」

即答する。


そしてまた、先輩は項垂れる。


「だから別に嫌じゃないんです。
 ……先輩もわかりますよね?」

俺が今拒否する理由。

「あ、ああ!」

ちゃんと気づいてくれたようだ。

「そうか、君は俺に風邪をうつさないよう
 気遣ってくれてるんだね?!」

「違います」


あ、泣きそうな顔してる。