恋華(れんげ)


そのとき、1階のお店のほうからお客さんらしき声が聞こえてきた。

「ハ~イ。今、行きま~す」

母さんは慌ててお店のほうに降りていった。



あたしは再び、パソコンの求人情報に見入った。

しばらくいろいろ見ているうちに不意に“ピアノ”という文字が目に飛び込んできた。

「ちくしょう…どーせ“ダメもと”なんだ…。こうなりゃ、なんだってやってやる……」

あたしはつぶやくと、母さんの置き忘れていったタバコに火を点けて「ふぅ」と紫の煙を吐いた。


さんざん迷ったあげくにあたしがとった行動は二度目の“ゴミ箱あさり”だった。

二度も捨てたはずの“ピアノ弾き”の夢を、みっともなくもゴミ箱をあさって、再び拾い上げることにしたんだ。


一度は自分から辞めたクラブに対し、頭を下げるのは屈辱的だったけど、それでもピアノが弾きたかった。

だから、あたしはもう一度あのクラブでピアノを弾かせてもらえるよう、何度も頭を下げてお願いしたんだ――――