恋華(れんげ)

「だから“殺した”んじゃない!中絶するってことは産まれてくるはずだった子どもを殺すってことなんだよ!」



母さんは、あたしの勢いに少しもひるんでいなかった。



「そうだろ? 殺したんだろ?」

「………」

あたしには返す言葉が見つからなかった。



「あたしはあんたを殺さなかった。女手ひとつであんたを育ててきた」

「………」

「けど、あんたは産まれてくる子どものために残りの人生すべてを賭ける覚悟がなかった。だから子どもを堕ろしたんだろ?」

「………」

「子どもの犠牲になりたくないから……自分の人生を大切にしたいから……だから、子どもを堕ろしたんだろ?」

「………」

「自分の子どもを殺してまで手に入れた人生なら、もっと一生懸命に生きなさい。奪った命のぶんまでも……」