「フッ。そうでもありませんよ」
やがて男の“いつものやつ”とあたしのベイリーズミルクがカウンターに並んだ。
「蓮華さんの22歳のお誕生日に乾杯!」
「乾杯!」
2つのグラスがぶつかりあって「カチン!」と澄んだ音を立てた。
「それにしても…」
と前置きしてから男が言った。
「まさか蓮華さんとこうしてお酒が飲めるとは思ってもみませんでしたよ」
「あぁ、あたしはホステスじゃないから…」
「それもありますけど、蓮華さんには、なんかこう“近寄りがたい雰囲気”みたいなものがありますからね。フフフ…」
「フッ。たしかにあたし、“話かけないでオーラ”を漂わせてますもんね」
「いえいえ。ピアノを弾いてるときのあなたの表情はいつもどこか哀しげで…、その横顔を見ながら私は、あなたが“どんなことを思いながらピアノを弾いてるんだろう”って、いつもいつも考えていました」
「………」


