高校を卒業したあたしは、卒業式の翌日には地元を離れ、東京都内のアパートで一人暮らしをはじめていた。

何もいいことのなかったアノ町には、これ以上1秒だっていたくなかったから。



卒業後の進路について、

「好きなピアノを弾いて生きていきたい…」

…とはもちろん思った。


だけど、その思いを母さんの前でクチにすることはなかった。

女手一つであたしを育ててくれた母さんに対し、音楽大学への進学を希望することは、金銭的にあまりに酷なことだと思ったからだ。

そして、あたしは夢を捨てた――――



結局、あたしは自動車の部品を作る小さな町工場の事務員として働きはじめた。


従業員が少なくて、とてもアットホームな雰囲気な職場だったんだけど、もともと“人付き合い”っていうものが苦手なあたしとっては逆に苦痛でしかなかった。


職場のおじさん、おばさんたちにしてみれば、18歳で親元を離れたあたしのことを親切で心配してくれてたんだと思う。