恋華(れんげ)




コンビニには“体調不良で休む”と連絡して、あたしは警察に駆けつけた!

「貴志っ」

警察官に付き添われてあたしの前に姿を現したカレの顔には、わずかに無精ヒゲが伸び、目の下に“くま”ができていて、見るからに疲れ果てたような表情だった。

担当した刑事さんの話によると、昨夜、路上ライブをしていたカレが酔っ払いオヤジとケンカになったんだそうだ。


「お前ら若いヤツらは“魂の叫び”だとかぬかして歌なんかうたってやがるが、結局はオンナにモテてぇからうたってるだけなんだろーが! カッコつけてんじゃねぇ! このスケベ野郎が!」

…などと酔っ払いにさんざん因縁つけられて、からまれたカレは、その後、殴る蹴るの暴行をふるわれ、あげくのはてにはギターまで壊されてしまったらしい。


もっともカレのほうはといえばクチでは応戦したものの、いっさい手は出さずに殴られっぱなしの蹴られっぱなしだったという。


警察署から出てきたとき、あたしはカレに訊いてみた。

「なんで抵抗しなかったの?」