「助けてカメラマーン」
彼女も叫ぶ。
四十分かけ、ようやくスーツ姿に似合わぬ大きなカメラを持った男性を見つけた。
肺の奥が水分スッカスカなのか息をする度に喉がガサガサ大変だ。
肩で呼吸をととのえる彼女は、ちょっとあんまり皆に見せたくないレベルで可愛い。
「「カメラマン!」」
振り向いた顔にもう頼む必要がないと分かった。
「撮って撮って! お願いです!」と俺が、
「卒アル載せてください」と彼女が、
「いいなぁ若い、うん、これは決定だ」と、カメラマンが、
同時に三人で笑った。
このために走ったんだ。
このためにわざわざ更衣室の鍵を盗んだんだ。
このために四ヶ月前から――……
「やった!、おい! お姫様抱っこにするからな」
「あはは! オッケ、やばい、笑える、私ら相当イタイなぁー」
「撮りがいがあるよ」
付き合った理由は好きだからで、好きな訳は惚れたからで、惚れた所以は可愛いからで、
こんなにもカラッポで軽くて薄っぺらで浅くて温くて弱い気持ちで成り立つ恋愛って、
なんて素晴らしいんだろう。
すっごく立派だ。
めちゃくちゃ純愛だ。
若さに任せよう。
園芸部の人たちが今日の為に育てたらしい中庭に咲く花のアーチの前で彼女を抱き上げた。
瞬間、タイムスリップするみたいに強い光が発し、目の前が真っ白になった。



