「――」
吸い込み方を忘れたのか、さっきからずっと彼女は荒い呼吸を繰り返す。
やっぱりコイツはアホだ。
しんどいなら彼氏のお願い事なんか無視すりゃいいのに、
なんだかんだ流されやすい奴なんだ。
「待って、つ、れた」
疲れたと言われたって知らない。
ノリノリだったのはお前もだろうに。
むしろ煽ったのは彼女の方だ。
走る。
慣れない緊張感やタブーへの恐怖心が働き、足がもつれそうになるが走る。
雨じゃなくて良かった。
晴れて良かった。
ぐんぐん景色が後ろへ、横目で周りを確かめるより、真っ直ぐ前だけを向こう。
結婚式の教会から花嫁をさらう凡人男性ばりの勢いで走る。
走る。
体育がなくなる大人は走る機会が減るそうだが、お構いなく子供の二人は走りまくる。
全力疾走だ。
目的地は、そう、未来だ。
「早く! 時間ねぇって!」
「苦、し、酸素、そ」
「帰ってるかもだし速く!」
「だって!、この格、好とか……っ」
ありえない、そう続けたいんだろう。
不満は聞かない。
更に強く手を引っ張り走る。
三階から二階へ、二階から一階へ、三校舎が違うなら渡り廊下で二校舎へ、
痛くて青春だと思った。
むしろ、おかしいと分かっていてこその振る舞いが最強なんだから大丈夫だ。
大好きなお姫様の手を引き走る。
映画のワンシーンのように、輝く。
さらう。
連れ去る。



