目線を合わせるよう膝を落とし、肩を掴み下から顔を覗き込み、

なるべく低めの声でゆっくり話しかけたら、だいたい胸キュンで困って頷くしかできないって、

浅い彼氏歴で発見したから、今回も大丈夫だろう。





「恥ずかしくない?、私はイヤだ!」

しかし、あっさり拒まれた。

言葉の通り顔を左右に振り遺憾の意を示す。


コイツは今更何を渋るのか。

そりゃあ恥ずかしいかって聞かれたら俺も恥ずかしいし、

誰かが外に居るかもしれないなら、ここから出る勇気は俺もない。



今日は文化祭で、バカが許される特別なチャンスを逃すのは勿体ない。

貧乏性か、今出来ることは早いこと手にいれたい。



「いいから! 時間ねぇ」


女子ウケの良いオレ様を真似て強引に腕を引っ張ったら、

いつもと違う彼氏の一面に驚いた彼女は目玉のオバケを誕生させる勢いで眉毛を持ち上げた。




「、も――」

これ以上文句を聞けばこちらも怖じ気付く。
そうと分かれば、クレバーな俺は黙らせる手段に出た。


すると、手っ取り早く沈黙が訪れた。


まあ、今キスとか次の展開を連想する奴には期待を裏切るが、

あいにく学内ですっとぼけた行動に出る若いパワーは持ち合わせてない。

アホな彼女は彼氏にニッと八重歯を見せて笑われたら、トキメキで息を止める可愛らしい生き物なんだ。

なんてめでたい子なのやら。
そのウブ加減に同情しちゃう。




「じゃあ決まり。もう後悔ないな?」