今日は誰も使う予定がない更衣室で好きな子と居る俺だから、皆と同じくご機嫌だった。
なのに、
「ごめん、やっぱり嫌かも」
なぜだか彼女は不機嫌らしい。
生意気に抗議してくる。
「いやいや今更何言ってんだよ?」
さっきまで盛り上がってたムードをぶち壊されたら、こっちだって不満だ。
「だって嫌なんだもん」
「別にいーじゃん!」
「やっぱりやめる」
「今更そんなん詐欺だろ」
お互い譲らないため、ちょびっと空気が悪い。
無意識でブリッ子な彼女は、顎にシワを作ってグロスで潤む唇をアヒルみたく突き出し、プンと顔を背ける。
煩いその口をキスで塞いでやろうかって、一瞬考えたけど、
それはあまりに少女漫画臭いから躊躇った。
「やっぱり無理」
それに、真っ赤なホッペで恥じらって、困ったように瞳を揺らす様子に、
うっかり盛るのは中学生っぽくてシャクに障るからチューで封印作戦は中止だ。
でも、当初の目的は果たしたい。
一刻も早くあの人を捜すんだ。
更衣室の鍵を盗んだ努力を無駄にするのは惜しい。
もう一度、確かめた。
「本当に嫌?」
恋人にすがるとは、俺もなかなか情けない奴だ。
あと一押し、
これも学生時代の思い出になると真剣に頼めば、優しい彼女のことだ、従ってくれるんじゃないかな。