「ここは聖なる領域じゃぞ。バシラオなどが踏み入るような場所ではない」

「実際に目の前にいる」

 冷静に応えて刺激しないように剣を抜く。

 そして小さく口笛を吹くとカルクカンはシレアの言葉を理解したように男の横に立った。

「なんじゃ? 乗れというのか」

 シレアが「そうだ」と目で応える。

 バシラオがいくら速くても、木々が生い茂る森では小回りの利くカルクカンには追いつけない。

 男はシレアと獣を交互に一瞥し、青年の隣に並んだ。

「なんだ?」

「ここで逃げては我ら一族の名がすたる」

 杖を構えた男にシレアは小さな笑みを浮かべた。