穢れなき獣の涙

「私に用か」

 怯えることもなく見据える。

 黒い影はシレアを見定めるようにしばらく沈黙していた。

 しかし、

[お前にはこの先、厳しい試練が待ちかまえている]

 影はゆうゆりと右手をもたげると青年を差した。

[旅は、お前をさらなる深淵へと誘(いざな)うであろう。その美しい姿が醜く歪むさまは、さぞ見ものだ]

 そう言った口元に笑みが浮かんだ気がした。

 影はそれだけ言うと満足したのか霧が晴れるようにかき消えた。

 しばらくして気配も失せたと確認し剣を持つ手をゆるめる。

「どういう手合いか」

 溜息を吐き、ナイトテーブルのピッチャーから真水をグラスに注いで一気に飲み干す。

 敵意は感じられなかったが、あまり良い言葉ではない。