──部屋に戻ったシレアは、ベッドに寝ころび目を閉じて窓を叩く風の音に耳を傾ける。

 そうして暗闇の記憶をたぐれば、自分を呼ぶぼやけた影が浮かぶ。

 呼ぶ声は高くも低くもなく、何かに共鳴するように響いていて男か女かも解らない。

 拾われる前の記憶はいつもこうだ。

 自分がいた場所の片鱗さえ見えてこない。

 二十年ほど前、西の辺境にある村の長老は久しぶりに遠出をして大きな街に出掛けた。

 そのとき、泣きもせず一人でいた幼いシレアを見つけた。

 問いかけても自分の名前と歳しか覚えておらず、しばらく街に滞在したもののシレアを探している者は見つけられなかった。

 比較的、大きな街では捨て子など珍しくはない。

 だからといって見つけてしまった以上、このままにしておくわけにもいかないと彼を集落に連れ帰った。

 長老は感情をあまり示さない幼児を少し怪訝に感じたが、シレアは正しく成長した。

 長老はそう信じている。